
ジャックマール・アンドレ美術館
最寄り駅(メトロ9号線St-Philippe du Roule)からは、少し歩く。とても遠くて大変、というほどでもないのだが、もし22番か43番のバスが利用しやすいところに居るのなら、バスで行くことをおすすめする。バス停「Haussmann-Courcelles」で下りると、そこは美術館の目の前である。
入場料は10ユーロ(2008年9月現在)と若干高めだが、これには音声ガイドの料金が含まれている。ガイドの説明は、とても丁寧で面白い。日本語版も用意されているので、じっくり聞きながら見学することをおすすめする。 (*館内は写真撮影禁止だったので、写真は外観のみ。)
銀行家一族の相続人である夫アンドレと、もと画家である妻ネリーの邸宅そのものが美術館となっている。公開されているのは、多額の資産をつぎ込んで、夫婦で収集したコレクションだという。 二人が出会ったきっかけは、独身時代のアンドレが、当時既に著名な画家だったネリーに肖像画を依頼したことだった。アンドレはボナパルト派のプロテスタント、ネリーは王党派に属するカトリックであったのだが、精神的にも、また趣味の上でも一致した二人は、その後結婚に至る。そして、子どもがなかった二人は、美術品の収集に共同で取り組んでいった。
一年の半分は、海外に出て美術品を収集していたというアンドレとネリー。収集するものは、飾りやすい絵画や彫刻ばかりでなく、天井画や巨大フレスコ画、暖炉、タピストリーなど多岐にわたっていた。そのため、二人の留守中には、ネリーが秘書と連絡を取り合って、常に邸宅の改装工事が行われていたそうだ。
二人が美術収集にかけた年間の金額が、ルーヴル美術館の年間予算を上回ることもあったという。オークションの前には、ルーヴルの学芸員から、「我々は予算不足なので、国家のためにぜひ○○(作品名)を獲得して欲しい」と連絡がくるほどだったそうだ。それでいて、ルーヴルの購入計画を邪魔しないように配慮したり、ルーヴルに贈与も行っていたという。
美術品の収集については、「気に入ったものを集める」というのが二人の基本スタイルだった。高い値がついているから素晴らしい、と短絡的に判断することは決してなかったようだ。美術史家や学芸員など、専門家に意見を求めることも多かったという。
二人の審美眼の確かさを表すエピソードも紹介されていた。イタリアから持ち帰ったコレクションの中で、後になってボッティチェリの作品だと判明したものがあるそうである。夫妻、とくにネリーは、あらゆる画家の中でボッティチェリを最も高く評価していた。誰の作品かは分からずとも、気に入った絵を買ってきたら、それが後にボッティチェリだと判ったというのである。
邸宅内では16の部屋を見学する。美術館として考えると、部屋数16というのは、特別に多い数ではない。しかしよく考えてみると、ここは実際に夫婦が住んでいた家である。夫婦二人で16もの部屋があるお屋敷に住んでいたということである。
【16の部屋】
| 1 絵画の間 |
| 2 大客間 |
| 3 タピスリーの間 |
| 4 書斎 |
| 5 婦人の化粧室 |
| 6 図書室 |
| 7 音楽の間 |
| 8 温室 |
| 9 喫煙室 |
| 10 大フレスコ画 |
| 11 音楽家のギャラリー |
| 12 イタリア美術の間(もとネリーのアトリエ) |
| 13 イタリア美術の間(フィレンツェの絵画) |
| 14 イタリア美術の間(ベニスと北イタリアの絵画) |
| 15 ネリーの寝室 |
| 16 アンドレの寝室 |
サロンはお客様を招待して舞踏会が開けるほど広さがある。招待客の人数に応じて、可動式のパーテーションを使って、2の「大客間」と7の「音楽の間」を、区切ったり広げたり出来る技術が採用されていたそうだ。 音楽の間の上にあたるのが、11の「音楽家のギャラリー」で、吹き抜けのようになっている。
部屋もすごいが、美術品もすごい。 例えば、婦人の化粧室(化粧室といっても単なるトイレというわけではなく、バスルームなども併設された身繕いのための部屋、おしゃれ部屋といったところか)には、ルブランの絵画や、ダヴィッドの絵画がさりげなくかかっている。
ルブランといえばマリーアントワネットに最も気に入られていた画家だし、ダヴィッドはナポレオンのおかかえ画家である。そんな二人の作品をパウダールームに置いてしまうとは、なんとも驚きである。
パウダールームもそれ自体、豪華でステキな部屋だったのだが、せっかくの著名画家の作品である。プライベートな空間ではなく、家の中でももっと人目に触れる場所に飾ればいいのに、と思ってしまった。きっと二人には、そんな判断基準ではなく、私には思いも寄らない別の考えがあったのだろう。
建物をくぐって入る玄関前の庭は、大きくスペースがとられていて、通りと接する出入り口が2カ所ある。庭に入ってきた馬車は、反対側から抜けて出て行くことが出来たので、舞踏会の夜も渋滞知らずだったそうだ。
玄関前には、白いライオンの像がある。ライオンがお出迎えしてくれるお屋敷に住み、自宅で舞踏会を催す・・今に残る邸宅を見学しながら、そんな世界に思いを馳せるのはとても楽しかった。
もっとも印象に残っているのは、夫婦のプライベートルームだ。ネリーの寝室とアンドレの寝室の間に、夫婦で使っていた居室がある。その壁には、画家だったネリーが描いたアンドレの肖像画がかけられていた。二人の出会いのきっかけとなった作品である。二人は毎朝そこで朝食をとっていたそうだ。 夫婦のプライベートルームに、出会いのきっかけになった絵が掛かっているのを見て、なんとなく私はこの二人に好感を持った。アンドレが亡くなるまでの13年間の結婚生活は、きっと深い愛情や思いやりに満ちていたであろうと想像した。
実は私は、ここを実際に訪れる前は、失礼ながら、財産にものを言わせて、ただひたすらかき集めただけのコレクションかと思っていた。美術館に入り、その認識が大きく間違っていたことに気付くのに長い時間はかからなかった。 アンドレとネリーは、確かな愛情で結ばれた夫婦であると同時に、美術品収集という共通の目的を持った同志でもあったのだと思う。そんな二人が、深い知識と教養に基づき、情熱をかけて集めたコレクションは、美術ファンでなくても一見の価値がある。
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ジャックマール・アンドレ美術館 Musée Jacquemart-André
最寄り駅 メトロ9号線 St-Philippe du Roule
オープン 10:00〜18:00
(ティールームは11:45 〜 17:30)
休館 無休
サイト http://www.musee-jacquemart-andre.com
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