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ジョルジュ・ド・ラ・トゥールについて Georges de La Tour

いかさま師「ジョルジュ・ド・ラ・トゥール」(1593-1652)は、フランス・ロレーヌ地方のヴィック=シュル=セイユという街で生まれました。
17世紀前半、画家として成功を収め、人気も得ていたようですが、その後この地方を襲った災害や戦乱により、作品の多くが失われ、画家本人の軌跡も途絶えてしまいました。

20世紀になって作品が再発見されたものの、画家の生涯についても 作品についても、不明な点が多く残されています。宗教画や風俗画が多く、中でも宗教画は精神性の高さを感じさせるものですが、画家自身の普段の行いはあまり評判の良いものではなかったようです。


ジョルジュ・ド・ラ・トゥールのこのような略歴を聞くたびに、私は別の有名な画家を2人連想します。

一人は、生前一定の評価を得ながらも、没後に一旦美術史上から姿を消し、約200年経ってよみがえった「フェルメール」です。 一度は歴史の影に隠れ、現代になってその作品が注目を浴びている点、室内に少ない人物を配した作品のイメージが似ていると感じます。

もう一人は、イタリア・バロックの天才「カラヴァッチョ」です。劇的な光の効果によって闇に浮かびあがる人物像。ドラマティックでストーリー性を強く感じさせる作品は、カラヴァッチョの作品に通じるものがあると思います(実際に、影響を受けているとされています)。
「作品の神々しさとは裏腹な画家の素行」という点でも、カラヴァッチョが念頭に浮かびます。カラヴァッチョほど激しくはなかったと思いますが。



日本人はジョルジュ・ド・ラトゥール好き?

ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの現存する作品は極端に少なく、残った作品にはキリスト教的宗教観をベースにしたものが多いのですが、その割りに、なぜか日本でも人気のある画家です。

2009年春に、東京上野の国立西洋美術館で開催されていた「ルーヴル美術館展」では、ジョルジュ・ド・ラ・トゥール作「大工のヨセフ」が注目の作品として大きく扱われていました。
遡って2005年春には、同じく国立西洋美術館で「ジョルジュ・ド・ラ・トゥール展」が開かれています。ラ・トゥールの代表作「いかさま師」が発していた強い存在感は、今でもよく覚えています。


故郷「ヴィック=シュル=セイユ」には、ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの美術館があります。フランス人でも、特に美術好きな人でなければ訪れないというその静かな美術館に、日本人は団体でやって来て、来たと思ったら あっと言う間に去って行くそうです。(以前、NHKラジオフランス語講座のフランス人講師が話していました。)

謎めいた人物像が、何か人を惹き付ける要素のひとつになっているのかもしれません。



ジョルジュ・ド・ラトゥールの展示室(シュリー翼3階)

ジョルジュ・ド・ラ・トゥールルーヴル美術館には、ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの作品が6点あります。 人気作品が集中するドゥノン翼ではなく、比較的すいているシュリー翼(しかも3階)に、ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの部屋が設けられています。

おそらく落ち着いて見学できると思いますので、ぜひ行ってみて!


展示室の様子 】
展示室
展示室







灯火の前の聖マドレーヌ灯火の前の聖マドレーヌ
La Madeleine à la veilleuse

(1642-1644頃)

<2012年以降 この作品はランスのルーヴル新館に移動しています>

ジョルジュ・ド・ラ・トゥールは、同じ主題で繰り返し作品を描いています。マドレーヌ(マグダラのマリア)も繰り返し描かれた題材のひとつ。似たような構図で、細部は大幅に異なる作品が、少なくとも4枚あることが分かっています。ワシントン・ナショナル・ギャラリー、ニューヨークのメトロポリタン美術館、ロサンジェルス群立美術館、そしてルーヴル美術館に各々所蔵されています。ルーヴルにある作品が最も最後に描かれたものとされています。

マドレーヌは左手のひらに顎を乗せて瞑想に耽っています。右手に添えられているのは頭蓋骨です。
ロウソクの明るさと照らされるマドレーヌの横顔、足下の暗闇。順に目を移していくと、まるでこの静かな暗い部屋の中に紛れ込んでしまったかのように思えてきます。



大工の聖ヨセフ大工聖ヨセフ/Saint Joseph charpentier

(1640年頃)

大工の守護聖人である聖ヨセフが、幼子イエスの前で梁に穴を開けている場面。

この作品でも、明るいロウソクの炎と、光の届かない闇の部分とのコントラストが際立っています。
ヨセフの がっしりとして逞しい身体つきと、柔らかそうなイエスの頬や小さな身体も 対を成しているかのようです。

灯りに照らされる幼いイエスの顔は白く浮かび上がります。火に透けるイエスの指の描写には、特に惹き付けられます。




聖イレネに介抱される聖セバスチャン聖イレネに介抱される聖セバスティアヌス
Saint Sebastien soigne par Irene

(1649年頃)

ショルジュ・ド・ラ・トゥールの作品の中で、場面が屋外であることが確定している唯一の作品として、重要視されています。

セバスティアヌスは、ディオクレティアヌス帝の時代に、ローマの軍人でした。皇帝にはキリスト教徒であることを隠していましたが、友人のキリスト教徒が処刑されそうになったとき、助けたことがきっかけで、自身がキリスト教徒であることも発覚して、矢を射られてしまいます。

この絵に描かれているのは、セバスティアヌスをイレネが介抱する場面。お腹に垂直に刺さった矢が痛々しいです。優しく手をとるイレネの額は、松明で照らされています。松明の炎は、大きくゆらめいているように見えます。

以後セバスティアヌスは、疫病から守ってくれる聖人、また兵士の守護聖人として信仰されるようになります。聖イレネは、看護士の守護聖人とされていますが、この場面が由来です。




羊飼いたちの礼拝羊飼いの礼拝/ L'Adoration des bergers 

(1640年代)

真ん中にいる赤子は、イエス・キリスト。新約聖書のキリストの降誕を礼拝する場面で、西洋の絵画を見ていると、時々出会うテーマです。マリア(画面左)とヨセフ(画面右)、天使から救世主の誕生を告げられてやって来た3人の羊飼い達(真ん中の3人)が、キリストを囲んでいます。

キリストだけを明るく照らすスポットのような灯りと、周りの人物の顔をぼんやりと浮かび上がらせる光の表現に注目です。単に「光が有る・無い」、または「明るい・暗い」ではないのです。奥行きのある光の表現は、ジョルジュ・ド・ラ・トゥール作品が持つ大きな魅力のひとつです。



いかさま師ダイヤのエースを持ついかさま師
Le Tricheur à l'as de carreau

(1635年頃)

ここまで見て来た4枚とは、明らかに傾向の違う作品です。ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの作品は、宗教的要素の強いものと、風俗画的なものに大別されます。この作品「いかさま師」は後者の代表です。

また、「夜の絵」と「昼の絵」に分類するという解説もよくあります。暗闇の中で、ロウソクや松明など人工的な光に照らされた場面を描いた作品が「夜の絵」、自然光のもとに昼の場面を描いたものが「昼の絵」で、「いかさま師」は「昼の絵」ということになります。

「昼の絵」とは言っても、明るい太陽が描かれているわけではありません。だからと言って、たしかに暗闇の中にいるわけでもないです。けれども、黒い背景とのコントラストによって、自然光と言うには明る過ぎる光源の下にいるかのような人物を見ると、私はこの絵にも夜っぽさと感じます。お酒を飲みながら、トランプ(賭け事)に興じるという場面的にも、夜だと思うのです。
…それは、さておき。


遠くから見た瞬間に、なぜかとても興味をそそられる作品です。思わず絵の前で足を止めてしまうような、不思議な磁力を持っています。

向かって右のあどけなさの残る若者が、他の3人に騙されている場面です。「Le Tricheur/いかさま師」というタイトルのインパクトも手伝って、一度見ると忘れられない作品だと思います。
登場人物の表情や手の動き、衣装など、細かい部分ひとつひとつが、怪しげでいかがわしい全体の雰囲気を作り上げています。

同じ構成で、左の男性の隠し持つカードがダイヤのエースではなく、クラブのエースのバージョンの作品がフォート・ワース、キンベル美術館に所蔵されています。


いかさま師拡大 いかさま師拡大
能面のような白い顔。この目つき・・。 何やら怪しい手の動き。豪華な衣装。




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